ブロックバスターの特許切れ、円高の影響で収益構造に変化

決算内容を分析

他の産業と比べると依然として高い収益性を維持している製薬企業ですが、社会保障の膨張により政策として薬剤費の抑制が続いていることにくわえ、ブロックバスター(大型製品)の特許切れ、円高などの影響もあり、その経営環境は年々厳しさを増しています。

東証一部に上場している製薬企業の2011年3月期売上高は、0.6%増、営業利益は4.7%となっており、武田や薬品やアステラス製薬などの大手企業は2桁の営業減益となりました。売上が横ばいで推移している要因としては、2年に1回実施される薬価改訂の影響、そして海外事業が伸び悩んだことが挙げられます。

国内の状況を見てみると、新しい作用機序を持つ糖尿病治療薬や降圧薬の配合剤など新薬の発売では活況でした。市場全体でも、オンコロジーや自己免疫疾患などの領域で薬剤需要が高まりました。

しかし、薬価改訂で平均6.5%の引き下げを受けるとともに、前年のインフルエンザ大流行による市場拡大の反動も合って、売上は2.8%増にとどまりました。企業ではアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」の売上が1,000億円を突破したエーザイ、後発医薬品部門に勢いがあるMeiji Seika ファルマなどが好調です。一方、インフルエンザ治療薬「タミフル」を発売する中外製薬、大日本住友製薬、塩野義製薬は低迷しました。

海外市場ではブロックバスターの特許切れと円高の影響を受けました。海外展開は武田薬品、エーザイ、第一三共など5社が牽引していますが、売上赤は前年比6.6%減の約2兆5,300億円となり、初の減少となりました。

従来、売上高が1,000億円を超えるようなブロックバスターで収益を上げる事業構造でしたが、特許切れで後発医薬品が市場に参入すると、売上は激減してしまいます。特に「2010年問題」と呼ばれるように2010年前後に大型製品の特許切れが相次いだため、現在の企業業績を直撃することになりました。

ブロックバスターを中心としたビジネスモデルの見直しを迫られた結果、製薬企業は米国偏重の販売戦略から中国、インド、ブラジルをはじめとする新興国での基盤づくりを急ぐ戦略へとシフトしています。世界の医薬品市場の成長は、およそ半分が新興国によって支えられているため、企業戦略として比重を変えるのは当然ともいえます。

各社の動向を見てみると、最大手の武田薬品は2008年度には海外売上高が全体の約55%を占めるに至りましたが、同社の主力製品である抗潰瘍薬「タケプロン」の特許切れとともに米国での業績は急降下し、2年間で海外売上高は17%も下落しました。さらに2012年8月には最大の国際戦略品である糖尿病治療薬「アクトス」の特許が米国で切れるため、後発医薬品の攻勢が始まります。同社は新興国での基盤づくりとしてスイスのナイコメッド社を約1兆円で買収しました。

第一三共は海外で主力製品の売上が減少しましたが、後発医薬品メーカーの大手ランバクシーを子会社に持っており、新薬のマイナスを補うことが出来ました。エーザイやアステラス製薬は主力品が大きく減少して業績の足を引っ張る結果となりました。

各社が重視する新興市場への取り組みは、中国に端的に表れています。各社とも十分な実績を挙げるには至っていませんが、いずれも近い将来の売上を現在の数倍にする目標を掲げています。武田薬品は今後数年間で200〜300億円を投資し、2015年の赤字脱却を図ります。エーザイは一般用医薬品や診断薬も手掛けており、2015年度までに売上高を3倍にします。

ただ中国は市場成長が著しいために、より有利な条件を求めて営業要員(MR)が流動しやすく、離職率は30%にも上ります。人員の定着をいかに実現するかが各社の成功のカギとなっています。