医師主導による治験、希少・難治性疾患に対する医薬品開発の支援を強化

医薬品事業での国際競争力を強化

厚生労働省は2012年3月にまとめた「臨床研究・治験活性化5カ年計画2012」では、治験ネットワークの促進等による症例集積性の向上や臨床研究中核病院の体制整備、小児疾患や希少・難治性疾患に対する医薬品の開発支援の強化、革新的医薬品・医療機器の創出に向けた体制整備を進める方針が盛り込まれています。

前回の5カ年計画は企業治験を実施するための病院体制の強化に重点が置かれていましたが、今回は症例集積性の向上が柱の一つとなっています。

例えば、病床数が400〜500床程度の3〜5の医療機関が単独ではなく、1つの医療機関として機能する体制の確立を目指します。治験ネットワーク事務局は、治験を実施する医師へのインセンティブをネットワーク内で計画します。

また共同IRB(治験審査委員会:Institutional Review Board)を活用することにより、審査の効率化、質の向上を図ります。さらに多施設共同での医師主導治験では治験調整医師を活用して治験の届出・施設間の情報共有に取り組みます。治験費用の支払については、「前納返還なし」ではなく「出来高払い」の採用が明記されています。

革新的な医薬品などの創出では、橋渡し研究や早期・探索的臨床試験、臨床研究中核病院、日本主導型グローバル臨床研究の拠点準備を目指します。収益を出しにくいことから製薬企業の取り組みが難しい小児疾患や希少・難治性疾患での医薬品開発支援の強化も盛り込まれました。

具体的には、研究に必要な予算を継続的に確保できる仕組みの検討や財政面での支援充実、厚生労働科学研究費での医師主導治験の支援を行います。また早期・探索的臨床試験拠点や臨床研究中核病院の整備事業の成果は、開発の進まない医薬品や医療機器の研究・治験の実績などを指標に評価するとしています。

また次期計画のアクションプランも2012年9月にまとめられました。治験のコスト適正化は、治験で中核的な役割を担う「臨床研究・治験活性化協議会」に加盟する54病院で2016年までに治験費用の出来高払いを採用する目標を掲げました。具体的な取り組みとしては、国が調査を継続して行い治験費用の実態を厚生労働省のHPで公表することや、県立病院などを念頭に2012年度より、順次、国が地方公共団体に出来高払い方式を積極的に働きかけることとしました。

人材育成の分野では、臨床研究・治験を推進するため2016年までに上級者臨床研究コーディネーター(CRC)を500以上養成する目標を掲げました。eラーニングの充実を引き続き図るほか、厚生労働科学研究費を活用し国が2016年までに初級者CRCと上級者CRCのカリキュラムを作成します。

症例集積性の向上では、2016年までに国内で優良な治験ネットワークが3つ以上誕生することを目標として掲げています。厚生労働省は優良な治験ネットワークの要件を定めた上で要件を満たしたネットワークは順次、厚生労働省のHPで公表していきます。

医師の一般的な職場は医療機関ですが、臨床経験を新薬の臨床開発に生かしたいと製薬会社のメディカルドクター(MD:Medical Doctor)として働く医師が増えています。特にがん領域、中枢神経領域など医薬品の市場シェア拡大が有望とされている分野での臨床経験が多い医師に対する需要が高まっています。